改札の通り方

十人十色という言葉があるように、
改札の通り方も人それぞれ。

ICカードを「バンッ!」とタッチする人
スマートウォッチで静かにピッとタッチする人
人の流れを止めまいとカバンの中の定期を必死に探し、ギリギリで取り出してなんともなかったように通過する人
カバンの底にICカードを忍ばせておいて、カバンごと改札のIC接触部に置く人
失くさないようにカバンに定期入れを繋げてあるが、短すぎてタッチする時に犬が飼い主に首輪を引かれたようになっている人

本当にいろんなやり方がある。



最近ではタッチが主流になってきたせいか、
紙の切符をタッチして通ろうとする人まで現れた。

以前は、ICカードを紙のきっぷのように投入してしまう人が多かったので、時代は変わったなあと思う。


定期券をPASMOSuicaなどのICカードにしている人が大多数を占める中、さまざまな理由で磁気定期(改札の投入口に通すタイプ)を今でも使っているお客さまは一定数いらっしゃる。

理由は、
乗り換え路線が多すぎて一枚に入りきらない場合
最寄り駅に自動改札機がないのでICカードにする必要性を感じない場合
…くらいだろうか?

私が思い付くのはこのくらいしかない。
(もう一つあるが、鉄道事業者としては撲滅したい方法なのでここには書けない。笑)


そして私が働く駅をご利用のお客さまで磁気定期券をお使いの方の一部に、なぜか毎回、有人改札を通る方がいらっしゃる。

しかも、ものすごいスピードで。


通る時に定期券を駅員に向かってかざしているが、速すぎて見えない。

もはや見せる気はないと思う。


「乗り換えで急いでいるのかな」
「定期入れから取り出すのが面倒くさいのかな」
「もしかしたら狭いスペースが苦手なのかも」


などいろんな理由を考えるが、あのスピードで通過されると、なんだか虚しくなる。


不正利用を疑うとかいうよりも、存在を無視されているようでとても悲しい。


また、精算に来られるお客さまでも、

算額ピッタリを用意しておいて、こちらの顔も見ずに無言でトレーに乗せて去っていくことがある。

最近では通話しながら精算に来られる方も多い。


時代は変わったなあとつくづく思う。


みんなそれぞれの用事で忙しいのだ。



でも、なんだか寂しいなあ。

事務室内の音

駅員になって、音に敏感になったような気がする。

さまざまな音が飛び交い、私たち駅員に異常や危険を知らせてくれる。いち早く何の音かを分別して、適切な対応を取らなければならない。

券売機の異常などだったら良いが、ホームに人が転落した等
最悪の場合、人の命に関わることになるからだ。

気づかなければ駅員失格。

私たちはみなさまの安全を守るために駅にいる。



事務室の中は結構うるさい。
さまざまな警報装置が取り付けられ、24時間関係なく作動して私たちにアピールしてくる。

・踏切に人が立ち入っていることを知らせる警報音
・首都圏の列車の運行状況を知らせる無線
・近くを走る列車の乗務員が使う無線
・券売機の呼び出し音(しかも機械によって音がちがう)
・駅構内で列車の緊急停止を知らせる警報音
・駅内で使う連絡用の無線


特定のお客さまとお話していても、全体の動きを把握しておく力が大事で、新入社員の時は結構苦労した。


最近は無意識に聞けるようになったので、すこしは成長できているのだろうか。

駅のシャッター

泊まり勤務の翌朝は、お客さまを迎え入れる準備から始まる。


エスカレーターを動かして
エレベーターを点検して

ホーム上に何も問題がないか、くまなく巡回をする。


日が昇る前の、シーンとしたホームを一人で歩いていると、駅にいるのが嘘みたいで

鳥の声なんかが聞こえると、あれ、ここどこだっけ?
と思ったりもする。


しかし駅員の朝は忙しく、そんな余韻に浸ってる暇はない。すぐに我にかえって、営業準備をする。

入鋏印(きっぷに押す日付スタンプ)の日付確認、
券売機立ち上げ、
その他もろもろ雑務、
その合間に掃除。


あっという間に駅のシャッターを開ける時間となり、営業開始となる。
これが遅れてしまうと、たちまち社内外でニュースになってしまう。
本当に時間に厳しい会社に入ってしまったなあとつくづく思う。


シャッターを開ける瞬間は、何かがスキマから入ってきそうで結構どきどきする。


夏場なんかは終電を逃した人が寝ていたりして、びっくりすることも。


始発を待っていた人は、待ってましたとばかりに改札へまっしぐら。


そんな姿を見届けたら、やっと一息つける。



「今日も時間通りに始められてよかった。」

定期券の解約

学校が休校になり、仕事もテレワークでするようになって、定期券を解約したい人が沢山いらっしゃるようになった。


最初から「定期の解約をしたいです」
と申し出られる方は少数で、


「日にちを伸ばしたいです」
(使わなかった日数分、有効期間を延長してほしい)

「利用開始日の変更をしてほしい」


…とみなさん自分が希望する手続きを口にされる。


その度に、定期券についてのルールはあまり知られていないんだなとつくづく思う。


窓口できっぷを発売する際、変更やキャンセルの説明は求められなければしない。
鉄道の利便性を上げるため、そういう説明は省いて良いことになっているのだ。

(5分後に発車する列車に乗りたいのに、キャンセルのこととか説明されてもやめて~ってなるでしょ?)



しかし、駅員が発券し、お客さまが購入した時点で契約が交わされたことになり、その後の取り扱いは旅客営業規則に則って行われます。

…めっちゃ分厚いので、駅員でもめったに見ない。

しかし、お客さまから求められたら呈示できるように、窓口や改札に置いてあります。納得できないお客さまに「根拠出せ!」と言われると必死こいて探します。汗)


何気なく使ってる券売機でも、鉄道会社と契約を結んだことになるのです。



今回テーマにしている、定期券も同じ。

「通学定期券は学生の身分を証明するものを携帯して利用すること」
なんていうことも規則に書いてある。

私は駅員になるまで知りませんでした。
(何度か不携帯で使ったことがあります…………)

あとよく見かけるのが、他の人の定期券を使って電車に乗ること。
これは立派な不正利用です。

鉄道会社は、契約者である定期の名義人と契約しているので、本人以外は使えません。

しかし、沢山の人が行き交う駅。
改札でバレることなんてほとんどありません。
みなさまの良心に任せられています。

(ただ、そういう時に限ってICカードタッチが上手くいかなくて改札で処理してもらうことになるのでご注意を。駅員さんは一見ぼやっとしてそうで、不正を見つけるのは大得意です。)


そして、定期券の解約は基本、1ヶ月単位です。
日割りの払い戻しはできません。
申し出た日から1ヶ月以上残っていないと解約しても戻ってくるお金はないのでご注意を。
(6ヶ月定期とかだと、5ヶ月使った時点で元がとれていて、1ヶ月以上残っていても払い戻し金額0円の場合もあります)

また、一度購入してしまったら、使わなくても変更は出来ません。一度解約してから買い直しになります。



日常的に使う契約のわりに、結構複雑だなと思います。
1年目は覚えるのに必死でした…
今もまだまだ勉強中です…


定期券の解約なんて、ほとんどの人が考えてなかったことだと思います。

それだけ鉄道が生活の一部になっているということなのかなあと思い、しみじみ。


使いきるのが普通だった定期券を、窓口にきて払い戻す。
そんな不安を抱えたお客さまに少しでも安心を届けられればいいなと思って最近は働いています。




追伸:
今は特別な状況なので、かなり緩和して払い戻しを行っている会社が多いです。
ホームページでチェックしてみてください。
(ベテラン駅員でも少し考えないと正しい対応ができないくらい複雑になっているので、理解して来てくださるととても助かります!)

ごはん事情

「ごはんってどうしてるの?」

とよく聞かれる。


何かあったときにすぐに出動できるように、基本は買ってきて駅の休憩室で食べる。

コンビニ飯
牛丼チェーン
スーパーのお惣菜

がほとんど。

お弁当を持ってくる人もいるが、泊まり勤務となると3食分を用意しなくてはいけないのでかなりの重さになる。

これにプラスして飲み物。
多くの人は2リットルペットボトルを買ってくる。


駅は絶え間なく動いているので、駅員の休憩時間なんて関係ない。

券売機で「切符がつまった!」 「お金が出てこない」といったトラブルが起きると、すぐに駆けつけるのが鉄則である。


余剰人員がいれば良いが、人員不足のこのご時世。

手が空いている人=休憩中の人

となるので、カップラーメンにお湯を入れたばかりの人でも、泣く泣く出動する。

すぐに解決すれば良いが、長引くと伸びきったラーメンを静かにすすることに。


でもそんなに状況をみんな逆に楽しんでいて、
伸びたラーメンを食べた話を武勇伝的に話したりする。

警報音を聞くと、自然と身体が反応してしまうのも職業病かなあと思う。



今日も光の早さで、お客さまの元に駆けつけます!

駅員の1日

駅には定休日はない。
平日でも休日でも関係なく働く。
また電車が動いている限り開いているので、早朝から夜遅くまで交代しながら業務に当たっている。

男女雇用均等法が施行されてからは、男女関係なく泊まり勤務をこなしていく。
結構斬新なことだったらしく、今でも年配の方には「女性も夜勤あるの!」と驚かれる。

駅での泊まりは、基本24時間勤務。
文字だけ見ると、過酷…。
と思ってしまうかもしれないが、慣れてしまえばちょこちょこ休憩があり、楽である。

友人から自分の担当の仕事が片付かない限り帰れないという話を良く聞くが、駅員は時間が来れば終わるのだ。
(ダイヤ乱れなどの異常時は除く…泣)


【泊まり勤務の例】

9:05 更衣時間
9:10 点呼
9:25 改札
10:25 券売機の締切
11:25 休憩
12:25 改札
15:00 休憩
16:00 改札
17:10 休憩
18:00 改札
19:35 休憩
20:35 改札
22:00 休憩
22:35 改札
23:55 休憩
0:10 改札
1:20 寝床を整える
1:30 休憩(仮眠)

6:30 職場内の掃除
6:55 休憩
7:25 改札
8:30 ホーム立ち番
9:30 更衣時間
9:35 退勤

ざっくりと組み立ててみたが、こんな感じで仕事をしています。
最初は慣れなくて、泊まり勤務が終わったあとはふらふらだったが、今では終業後に遊びにいけるようにまでなった。

体質化されたのだ。人間の適応能力はすごい。


管理者クラスになると、50代でもバリバリ泊まり勤務をこなすスーパーおじさまが沢山いる。

いつもパワフルで、本当にすごいなあと感嘆する。
習慣化の賜物である。


健康で元気に働けるのが一番ですね。

遺失物

電車の中に忘れ物をしたことはありますか?


あ!と思ったときは時すでに遅し。
ドアが閉まって次の駅へと向かう電車…

私も何度もやったことか。



駅員となり、日々届けられる落とし物の多さに驚く。
そして10円でも律儀に届けてくれる皆さまの良心に嬉しくなる。


お客さまから届けられた以上、「これは…ゴミじゃないかな…?」と思っても遺失物となり、システムに登録しなければならない。
色、カタチ、拾った場所、日時など事細かに入力していく。
結構時間のかかる、大変な作業である。


その作業量の多さに、「もうー!」と叫びたくなる思うこともあるが、もしかしたら探している人もいるかもしれない…!と自分に言い聞かせて、再びパソコンの画面に向かう。


自分にとっては不要なものであっても、
ある人にとっては必要なもので、時にはむしろ大切なものである事もあるからだ。

一つの方面からだけモノゴトを見てはいけないんだなと悟った。



遺失物のことでたまに揉めたりするのが、

ホームでお客さまから預かった遺失物を駅事務室へ運んでいるときに、落とされたお客さまが「あ、それ俺の!」と申告された時。

この場合であっても、すぐにお渡しはできません。

(登録作業も面倒だし、受け渡しにも書類を書いてもらって、確認して…と時間がかかるし、本音を言うとすぐに渡したほうが楽…!なんですが。笑)


本当にその方のなのか?
をきちんと確認しなければなりません。


「反応から見たらわかるだろ!」と思われるかもしれませんが、多くの方が利用される鉄道です。
何があるかわかりません。

一つの側面からだけモノゴトを見てはいけない。
…もしかしたら、勘違いされているかも。
…もしかしたら、他に申告される方がいるかも。

様々な可能性を考えなくてはなりません。

公共性の強い鉄道だから。


こういうところが、固いなあと言われる理由かなと思いますが、「これくらい大丈夫」と思ってやらなかったことが原因で、沢山の悲しい事故が起きています。それが現実です。
新しい事故を起こさないために、遺失物の取り扱いであっても、厳格に行っています。

どうぞ、お付き合いください。



この間も似たようなことがあり、
改札でお客さまに沢山のご意見を頂いた。

「俺のだって言ってるのになんで?」
「そこについた傷が証拠だよ」

それでもめげずに黙々と手続きを進める私。

なんとか引き渡し書類に記入をしてもらうも、
イラついていた、かつ少し酔っぱらっていたため
文字が荒れていて解読するのに更に時間がかかる…

それでも「早くしろ」と、罵倒は飛んで来る。

終了後、「くだらねえ」と言って精算レシートを投げつけて去っていかれたお客さまの後には静寂が残り、私も心の中で「くだらないよね、わかるよ」と思いつつ、涙が頬を伝う。


どの対応が、正解なのか。

改札で模索しながら、さまざまな問題と格闘しています。




さて今日も、制服や会社のパソコン、リュックサックまるごと…等、沢山の忘れ物たちが改札に届けられています。

盗まれずに来られてよかったねと思いつつ、検索に引っ掛かるように全力で登録します。

いろいろあるけれど
日本はまだ平和だなあ、と思います。




…忘れ物をしないのがイチバンなので、降りる駅が近づいたら準備をしてお待ち下さい。掛け降りは危ないよ!

…見つかって書類を書くときは、少し丁寧に大きめに書いて頂けると助かります!